学校における健康管理
2008(平成20)年1月の中央教育審議会答申「子ども心身の健康を守り、安全・安心を確保するために学校全体として取組を進めるための方策について」では、子どもたちが抱え、直面する様々な心身の健康課題に適切に対処し、解決していくためには、単に個人の課題としてとらえるだけでなく、学校、家庭、地域の連携の下に組織的に支援していくことが大きな意味を持ち、そのために学校全体として組織的な取組体制を築いていくことが大切であることが示されました。
上記答申を踏まえ、2008(平成20)年6月に「学校保健法」(昭和33年法律第56号)が「学校保健安全法」に改定され、それに伴い学校薬剤師の職務を規定している「学校保健安全法施行規則」(昭和33年文部省令第18号)において第24条に健康相談及び保健指導に従事することが加えられました。学校薬剤師は、本改定以前から学校における保健管理に関する専門的事項に関する技術及び指導に従事していますが、子どもの健康により関わっていくことが期待されています。
熱中症
熱中症は、暑い環境下で起こるものであると思われがちですが、気温がそれほど高くない日でも湿度が高く、風が弱い日には起こりやすくなります。また、体調や暑さに対する慣れなども影響します。まだ夏本番前の5月末から6月初めにかけて熱中症の報告が増え始めるのは、気温だけでなく湿度が高くなり、多くの人がまだ暑さに慣れていないことも大きな要因と考えられています。
熱中症は、体内の水分や電解質の欠乏で起こる脱水症状による健康障害であり、高体温による臓器障害、時に死に至ります。したがって、熱中症は予防が大切になります。予防対策としては、子どもたちの健康状態を把握し、早寝・早起き・朝ご飯など生活管理・体調管理をしっかりさせること、特にスポーツや屋外活動等の際には、こまめに水分やミネラルを補給させ、体調の悪い子どもがいたら風通しのよい日陰等で十分に休息させることが大切です。また、子どもを預かる学校等では、熱中症は屋外だけなく屋内でも起こり得ることをしっかり認識し、気温だけでなく湿度や風の流れなどに注意することが大切です。
近年、人体の熱収支に関わる環境要素を取り入れた指標として「WBGT(Wet-Bulb
GlobeTemperature,湿球黒球温度)」が使われるようになってきています。WBGTは、乾球温度、湿球温度、黒球温度の測定値から算出され、日射のある屋外と日射のない室内では計算式が異なります。
- 屋外で日射のある場合:WBGT = 0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
- 室内で日射のない場合:WBGT = 0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
日本スポーツ協会の熱中症予防運動指針(2013)によると、WBGT31℃以上では、特別の場合以外は運動を中止することと示されています。
<参考資料>
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル
2018」
Ⅲ-3.運動・スポーツ活動時の注意事項 参照 - 日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
医薬品の管理
学校には、プールの衛生管理や理科等の授業で使用する様々な薬品があり、医薬品も含まれます。日本学校保健会(現:公益財団法人日本学校保健会)の調査結果では、2007(平成19)年度に児童生徒が使用する一般用医薬品を置いている小・中・高等学校は、いずれも98%を超えていました(学校における薬品管理マニュアル(電子ブック)。また、上記調査では、児童生徒が使用する医療用医薬品を預かっている小・中・高等学校は、それぞれ43.1%、19.0%、11.5%であり、当時であっても決して少なくない割合です。近年、緊急時使用すべき医療医薬品(アドレナリン自己注射薬、熱けいれん時坐薬等)について学校での管理を求められることも多くなっています。
学校保健安全法施行規則第24条では、学校薬剤師の職務として「学校において使用する医薬品、毒物、劇物並びに保健管理に必要な用具及び材料の管理に関し必要な指導及び助言を行い、及びこれらのものについて必要に応じ試験、検査又は鑑定を行うこと」が規定されています。しかしながら、医療用医薬品を預かっている学校であっても学校薬剤師や学校医の指導を受けていない小・中・高等学校の割合は、それぞれ75.7%、80.3%、56.4%であり、医薬品管理について学校薬剤師が果たす役割がまだまだ大きく、学校とのさらなる連携が求められます。
学校における医薬品の管理については、上記日本学校保健会の「学校における薬品管理マニュアル」だけでなく、新潟県学校薬剤師会・新潟県学校保健会が作成した「学校における薬品管理の手引き-六訂版-(2017年)」も参考にしてください。
食物アレルギー(アナフィラキシー対応)
学校給食等による食物アレルギー・アナフィラキシーについては、文部科学省監修の下、2008(平成20)年に財団法人(現:公益財団法人)日本学校保健会が発行した「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(電子ブック)に基づき対応することとされています。しかしながら、2012(平成24)年12月に食物アレルギーを有する児童が、学校給食終了後にアナフィラキシーショックの疑いにより亡くなるとう痛ましい事件がありました。この事件の教訓を踏まえ、文部科学省は2015(平成27)年3月に「学校給食における食物アレルギー対応指針」を示しています。
児童生徒が食物アレルギー・アナフィラキシーを発症した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。アナフィラキシーの進行は一般的に急速であり、食物アレルギー等によりアナフィラキシーを起こす危険性が高いものに対してアドレナリン自己注射薬(エピペン®)が処方されています。したがって、教職員は、児童生徒が自己注射できない場合に代わってアドレナリン自己注射薬を投与することが期待されており、そのための研修会も広く行われています。一方、アドレナリン自己注射薬は、本人もしくは保護者が自ら注射する目的で作られたものであり、迅速に注射するためには、児童生徒本人が携帯・管理することが基本と考えられています。しかし、個人で管理し難い場合やアドレナリン自己注射薬を2本以上処方されている場合などでは、学校において管理することになります。学校種、学校規模等により保管・管理方法が異なることが考えられ、学校薬剤師には学校の実情に即した適切な助言が求められています。